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"米国人が見る中国の各種工作活動の中には、ほかの国とは異なる「いかにも中国らしいやり方」が随所に見られ、実に興味深いのだ。 1.対象となる情報 (1)中国の周辺諸国で米国との関係が深い国(特に台湾)に関..."

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米国人が見る中国の各種工作活動の中には、ほかの国とは異なる「いかにも中国らしいやり方」が随所に見られ、実に興味深いのだ。

1.対象となる情報
(1)中国の周辺諸国で米国との関係が深い国(特に台湾)に関する政治・軍事情報

(2)米国の先端科学技術、特に軍事技術、軍事転用の可能な汎用技術に関する情報

(3)政治・軍事情報以外でも中国企業にとって有利となるような経済情報、ハイテク情報

注:ここで興味深いのは、これらのほかにも欧米や日本では単なる「ニュース解説記事」に相当するような分析情報をも収集対象としていることだ。政経一体の「中国株式会社」が、米国の様々な動向を真剣に調査研究し、合法・非合法を問わず貪欲に関連情報を収集しようとしていることがよく分かる。

2.具体的手法
(1)工作員リクルート活動の98%は(全米人口の1%に満たない)在米中国系社会に対するものである。(注:この点、在米ロシア系社会に対する活動が全リクルート努力の25%程度でしかないロシアとは大きく異なる)

(2)できるだけ多くの中国系米国人に接触し、長期的関係の維持に努める。

(3)偽装会社を設立し、存在自体を「現地法人化」して活動の合法性を高める。

(4)米国に留学する学生・研究者、商用で米国に入国するビジネスマン等に対し、中国が必要とする情報につき事前に言及するなどして、陰に陽に情報収集活動を行うよう慫慂(しょうよう)する。

(5)研究活動等を通じて接触した米国人の工作員候補に対しては、米国内では情報提供を求めず、中国に招請し、中国国内の酒宴などの席で機密情報を聞き出す。

(6)大使館、総領事館はこれら工作員との連絡を密にしつつ、必要に応じ、米国内で非合法手段により入手した機密情報を外交パウチで本国に送付するなどの支援を行う。

 注:工作対象が中国系移民社会に集中するのは語学能力、秘密保持等の見地からも有利だからだ。一方、2005年にはインド系米国人技術者がB2爆撃機のステルス技術の対中国漏洩容疑で逮捕されるなど、中国系社会以外からのリクルートも増えているようだ。

3.中国式諜報工作の特徴

(1)中国政府は巨大なスパイ組織を有しているにもかかわらず、米国内での合法、非合法の情報収集活動の多く、特に科学技術情報に関する工作については、中国諜報機関は必ずしも直接コントロールしていない。

(2)中国の諜報機関は、他の国では一般的な「収集対象となる情報を特定してから、その情報にアクセスを持つ少人数の工作員をリクルートする」というソ連式の手法をあまり好まず、目的を特定しない、より広範な情報収集を長期的に行う傾向がある。

(3)中国は「少人数のプロの工作員による多量の情報収集」ではなく、むしろ「多人数の工作員による(それぞれとしては)少量の情報収集」を重視しており、そのために多数の素人に近い工作員を米国内に維持している。

(4)中国当局は工作員に対しあからさまな形で違法活動を強制するわけでは必ずしもなく、むしろ工作員の自発的協力を引き出す説得活動を重視するため、中国に情報を流す工作員にはエージェントとしての自覚がないケースも多い。

 注:最近の米国における傾向を見ると、1990年代に多額不正献金事件等に懲りた中国側が方針を一部変更し、可能な限り違法活動を避けて、工作の重点を合法的活動を行う「素人」による数に物を言わせる「人海戦術」に移行しつつあるように思える。その意味では諜報の手法としてはあまり洗練されていないようだが、「ハンドブック」は逆に、こうした中国のやり方は「摘発が非常に困難」であり、「非能率(inefficient)ではあるが、決して効果がない(ineffective)わけではない」と評価している。

中国の諜報活動にいかに対処するか

米国での秘密工作の実態が以上の通りであるとすれば、日本における活動もほぼ同様であると考えてよいであろう。

実際に2005年にオーストラリアで亡命した元中国諜報部員・陳用林氏によれば、現在オーストラリアに1000人以上、米国には3000人以上の中国のスパイがいる由である。

さらに、日本に1000人、カナダにも300〜500人の中国スパイがいるとの情報もある。

日本における中国の諜報活動の実態は依然として闇の中にあるが、これまで見てきた米国の経験は非常に参考になるだろう。最後に、日本政府および企業が留意すべき点を挙げよう。

(1)日本の防諜活動は米国に比べてはるかに見劣りする。現在日本国内では、工作員の一本釣り、権力者に対する(買収を含む)工作、素人による「人海戦術」作戦のすべてが同時並行的に行われていると考えるべきである。

(2)特に、日本にはスパイ防止法がなく、政府による効果的な防諜活動を企業は期待できない。各企業は必要に応じて自助努力を続けるしかないだろう。

(3)最近中国スパイ事件が摘発されたからといって、日本国内で特定の国籍や人種に対する差別を行うことはできない。また、多くの場合、中国のスパイは初めから「プロのスパイ」ではなく、状況の変化により、突然諜報活動を開始するケースも多々あるので、不断の注意が必要である。



- 米情報関係資料が語る中国の実像 2009.05.08(Fri)  宮家 邦彦 (via nandato)

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