こーんな話がツイッターで入ってきました。ヤマザキ製パンの話じゃないけどさ、これは不安になってもおかしくないかもね。僕は僕でこんな間の抜けた反応をしましたが。
詳細分からないけど保存料が適切に効いてるという事でいいのでは? RT @yuzu_taro: 半年経っても腐らないマックバーガー、世界中で話題沸騰 http://bit.ly/9LNpHN こんな危険なもの食べてたら、病気にもなるよね…
ファーストフードは長期保存を見越した保存料使わないだろ、俺。と、なると一体どういうことかな?という事で教えてもらいながら調べてみました。
まぁ 結論から言ってしまえば理想的な環境で速やかに乾燥したから、という事になるみたいです。肉についてるソースがあるじゃないかとか肉はどうなるんだとかあ りそうですが、この辺は塩分様ががんばってくれたのだと思います。(追記)特に乾燥についてはアメリカのハンバーガーに限らず全ての食品に共通でカビや細 菌が繁殖できなくなる条件が有ります。(ここまで)
キーワードは水分活性(Aw)です。
長くなるので続きは折り畳んであります。 水分活性Awとは、Aw=P/P0で表される指標です。Pは食品がもつ水蒸気量、P0は 飽和水蒸気量を表します。身も蓋もない言い方をしてしまえば、食物がもっている湿度です。なので食物が水(純粋)だった場合Aw=1となります。この指標 によって微生物やカビが繁殖できるかどうかを調べることができます。最近の流行である、減塩と無添加を確保しつつ食品の安全性を求めるのに特に重要視され てる様子です。
ところで、腐るために必要な微生物も、カビる為に必要なカビの胞子も水分がないと活動できないのは言わずもがなだと思います。しかし、これらが食品に含まれる水分を全て使えるかと言うとこれは違うようです。
食品に含まれる水分は2種類(あるいは3種類)に分けられています。結合水と自由水です。3種類の場合は溶解水という物が加わります。
結合水とは、炭水化物やタンパク質などと化学結合している物。水素結合をもっていたり、水和してる状態です。水和というのは、文字通り水が物質に結合してる状態です。中学か高校で、硫酸銅・五水和物(Google画像サーチ)という水色の結晶を見たことはあるのではないでしょうか。場合によっては水が常温でも固体になるほどの状態です。つまり、周りが乾燥してるとか湿っているだとかのある種の物理的要因に左右されない状態にあります。
自由水とは、文字通り自由に動ける水です。自由に動けるというのは、周囲が乾燥してれば蒸散し、湿っていれば吸湿される普通の状態の水という事です。
溶解水というのは2つの中間で、まぁ要するに水溶液を指すみたいです。中間なので溶けてる物質に結合してるのは結合水、結合してないのは自由水という事になりますね。
この2種類の中で微生物やカビが利用できるのはどれか?という事になります。結合水もおそらく有る程度は利用できるのもいると思いますが、主要なものは殆ど自由水です。なのでAwはこの自由水を対象とした指標になります。
こ の指標はかなり信頼性の高い値だそうです。微生物のたぐいは大体0.9程度、カビは0.7強で殆ど発生しなくなり、0.5~6ぐらいだとほぼ全ての微生物 や菌類が繁殖できなくなるようです。酵素なんかは0.2ぐらいまでは仕事するそうです。(関係ないけど、なんか最近Google公告で怪しさ満点の酵素商 品が売りに出てますね。論文検索してみたけどヒットしなかったよ。探し方が悪いのかもだけど)
図やグラフは最後に参考リンクを載せますので、そちらをご参照ください。
話 を戻すと、食品に水分が飽和水蒸気量の9割“も”ある状態でも微生物は殆ど繁殖できず、カビに至っても7割が限界という事ですので、パンが速やかに乾燥し てしまったのならば、カビる事も腐ることもなく保存されたのは(素人感覚には)信じがたいですが、科学的にはおかしく無いという事になります。
でもそうはいってもお肉やお肉についてるソースがあるじゃないかというのが次の疑問です。僕もここにひっかかってました。
まぁ まずお肉は高温でしっかり焼いているでしょうから最初は菌そのものは居ないとしていいでしょう。肉を囲むソースですが、いくらか人と話した結果、これは結 構塩分が入ってるからではないかという感じの結論になりました。細菌の殆どは0.2Mという比較的薄い感じがする塩分濃度で死滅するようです。海棲微生物 でも0.5M程度だとか。Mというのは濃度の単位でmol/Lを意味します。molっていうのは何度か話題にしてますが、その物質が6.02*1023個 あつまった時を1molとする、12個を1ダースっていうような単位です。塩の場合1molで58.5gなので、0.2Mは17g/Lぐらい。だから水溶 液で1.7%程度の濃度ですね。ソースは種類によって5~15%位含まれてるようなので、これなら安心できそうですね。それで被われてるお肉も細菌が繁殖 する余裕はたぶんないのではないでしょうか。
(追記)改めてニュースに関連する画像や動画見て回りましたがソースついてないですね。でも肉は脂ぽいし(自由水が少ない)、塩分あるだろうしという事で結論変化せずです。(ここまで)
と いうことで信じがたい事ですが、別段特になにをする必要もなく、カビや細菌が繁殖する前に乾燥してればカビない腐らないという結論になるようです。(追 記)これはハンバーガに限らず、放置されて乾燥した食品や、自由水が少ない食品(油脂類とか保存食)にも通用する考え方という事になります。参考リンクの ニッスイが一番分かりやすいと思います。(ここまで)
ただ乾燥してしまうと当然食味が酷いことになるので、市販のパンなんかは保存料を利用する、Awを正確にコントロールするなどの方法で乾燥しないでも長期保存できるように調整されてるという事になりますね。
なかなかおもしろい話でした。
参考:ニッスイ(日本水産株式会社) おいしさを科学する 保存性に関わる水分活性値
株式会社テックジャム 水分活性
水分活性とカビの生育
他数件
調査協力 @ohira_yさん @muimiさん ※両者ともリンクは個人WebSiteへ。共におすすめです。
まー、しかしなんだ。添加物なんて使えば使うほど普通コストあがるはずだよね。
その後知った余談:法隆寺など古寺が未だに残ってるのは、使われてる素材の結合水が特に頑丈だからという事もあるらしいです。1500年前の職人さんは経験的に既に分かってたのですな。こんな所に食品とお寺の共通点。
「アメリカのハンバーガーは半年腐らない」は本当か - 趣味:科学: