"大事なことなので何度でも言う。民主党外交が批判されているのは「弱腰」だからではない。「弱腰ですらない、ただの無能」だからだ。 　いわゆる弱腰外交は、外交的にはきわめて重要なオプションの1つである。古く..."

大事なことなので何度でも言う。民主党外交が批判されているのは「弱腰」だからではない。「弱腰ですらない、ただの無能」だからだ。

　いわゆる弱腰外交は、外交的にはきわめて重要なオプションの1つである。古くは小村寿太郎が弱腰外交の実践者だったが、当時の国民感情はともかく、現在、小村外交を安易に批判する者はいない。最善のタイミングで引き際を見極めるのが弱腰外交の要点だろう。

　民主党は、弱腰外交を実践できていない。弱腰外交を実践するには、分析力、判断力、そして政治家の重い決断が必要となる。民主党には、そのすべてが欠けている。だから、戦略もないままに対中「強硬」路線を進め、相手が本格的に反撃してきたら、あわてて撤退する。場当たり的に敵前逃亡するのは、弱腰外交でも何でもない。単なる「機能不全」である。

　ところが、そんな民主党外交を「現実的」と持ち上げる人がいる。

「中国漁船の船長釈放が決まったことについて、日中関係悪化によるビジネスへの悪影響を懸念していた日本の経済界では、『弱腰との批判はあろうが、現実的に解決しないといけない』（東京証券取引所の斉藤惇社長）などと釈放決定を評価する声が聞かれた」（毎日新聞 ）

　斉藤氏に限らず、この手の擁護論は、これから各方面で聞かれるようになると予測される。「民主党外交を批判しているのは、中国と戦争したがっている頭のおかしい右翼だけだ。民主党は現実主義で、大人の外交をしている」という理屈で、事態を「沈静化」させたいのだろう。いかにも現実主義と「くそリアリズム」の区別もつかない人たちが好む「大人の屁理屈」だ。はっきり言って、この手の「現実主義者ぶる『くそリアリスト』」が、国を危うくする。

　中国は、今回の件で日本に謝罪と賠償を要求してきている。民主党外交を「現実的」と評価する「くそリアリスト」は、こういうとんでもない結果になったことを、どう考えているのだろうか。民主党政権が中国に謝罪・賠償すれば、またまた「弱腰との批判はあろうが、現実的に解決しないといけない」と擁護するつもりなのか。

「中国外務省は船長の到着に合わせて、『日本側は今回の事件について中国側に謝罪と賠償を行わなければならない』という声明を発表した。

　今回の事件で中国側が謝罪と賠償を要求するのは初めて。日本政府は中国側が打ち出した対抗措置の解除を要求しており、日中両政府の対立が長期化する可能性が出てきた」（毎日新聞 ）

　本当の弱腰外交なら、早期に火消しをして、中国にカードを切る余地を与えない。たとえば2004年3月24日に起きた、尖閣諸島への不法上陸事件では、7人の中国人活動家を逮捕したが、わずか2日後の26日に、送検をしないまま強制送還した。建前上は「沖縄県警の判断」ということにされたが、26日夕方の記者会見で、小泉首相が「日中関係に悪影響を与えないよう大局的な判断をするよう指示した」と自らの政治判断、政治責任を明確にしている。これこそ見事な火消し、責任ある弱腰外交であった。
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　一方、今回の中国漁船衝突事件では、9月8日に船長を逮捕、漁船と乗組員14人も取り調べられた。その後、政府がもたもたしている間に中国からの圧力が高まり、船長逮捕から5日後の13日に、漁船と乗組員14人が中国に帰国させられた。もし、民主党政権が弱腰外交を実践したいのであれば、このタイミングが最後のチャンスであり、船長も一緒に帰国させるべきだった。しかし、船長は釈放されず、対中「強硬」路線が選択される。

　対中「強硬」路線を選択した結果、中国人観光客の訪日旅行が事実上制限され、レアアースの輸出も事実上停止、さらに在中日本人4人も報復的に逮捕された。もちろん、対中「強硬」路線を選んだ時点で、これらの事態はある程度予測されたことである。それだけの覚悟をして、長期戦でわが国の主権と国益を守るために、民主党政権は行動していると誰もが信じていた。

　そして、船長逮捕から16日後の24日、突然、民主党政権はゲームを降りた。威勢のいいことを言って掛け金をつり上げておきながら、一方的に撤退して、さらには責任を逃れるように必死に「那覇地検の判断」と言い出した。菅首相、仙谷官房長官、前原外相もすべての責任を那覇地検に押し付け、自らの政治判断、政治責任を曖昧にしている。

　だったら、最初からゲームに参加しなければよかったのに、中途半端にゲームに参加して、大損した。しかも、大損しているくせに、まわりの応援団は「ゲームを降りたのは現実的」とみっともなく賞賛している状況だ。前原外相などは、次にまたゲームがあったら絶対にうまくやる 、と最も恥ずかしい発言をしている（今回の件で本当に無能だったのはこの人）。このまま中国との「戦後処理」をうまくまとめられる能力は、現政権には絶対にない。現実主義者ぶる無能者を、一刻も早く国政から排除しなければならない。

　それから、民主党外交を「弱腰だ」と安易に批判している人は、日本が誇る責任ある弱腰外交の歴史に謝ってもらいたい。民主党外交は「弱腰だ」と批判する価値もない、史上最低の外交である。