■高給与に目を向けよ
◆通常業務にも手当
「増税の前に公務員改革」は政治の決まり文句となった。だが、先の参院選でも真っ最中の民主党代表選でもやり玉にあがるのは霞が関官僚だけで、はるかに優遇されている地方公務員が忘れられている。公務員改革の本丸はここにあるのに、なぜ政治は目を向けないのか。
「最近、後輩の学生たちに聞くと中央官庁より都庁に入りたいという。官僚になってバッシングされるより、地方公務員の方が安泰で待遇がいいからだ」
ある霞が関の中堅官僚の嘆きである。多少は誇張があるにしても、なるほどと思う。それは恵まれた地方公務員の給与水準をみれば明らかだ。国家公務員と比べてみよう。
国家公務員の給与水準を100として地方公務員の水準をみるラスパイレス指数は、高給与批判を受けて一昨年度には98・7まで低下した。だが、これは全体数の3分の1である一般行政職の本給を比較したにすぎない。数々の手当を加えれば、地方の方がまだはるかに高い。
しかも、その手当がおかしい。例えば危険・不快な業務を対象に支給する特殊勤務手当が窓口に座っただけでもらえる。これを“窓口手当”というが、きっと地方公務員にとって住民サービスは危険で不快なのだ。また、ある市営地下鉄では電車を所定の位置に停止させるだけで運転士に“正確手当”が出る。
page: 2
民間企業がこんな通常業務にいちいち手当を出していたらやってはいけない。いや、数年前にドイツの地方公務員にこうした話をしたらあきれ返っていたから、公務員でもこの非常識が通用するのは日本くらいだろう。
◆悪平等の給与体系
民間給与と比べると、その高給与ぶりはもっと際立つ。特にラスパイレス指数に含まれず、聖域となっている運転士などの技能労務職員の公民格差には驚く。清掃職員や学校給食員、バス運転手、自動車運転手が民間の約1・4倍で、用務員や守衛が1・7倍前後、電話交換手に至っては1・9倍である。
地方公務員法では「民間準拠」をうたっているのに、なぜこんな高給与構造がまかり通るのか。代表的仕掛けの一つに「わたり」と称する悪(あ)しき慣行がある。職能ランクに関係なく給与ランクだけが上位にわたっていく制度で、全国的に広く採用されていた。
これも「給与はその職務と責任に応ずる」とする地方公務員法に反するのだが、総務省の調査によると、いまだに福島、千葉、大阪の3府県と岡山市に存在す る。廃止したという青森県や大阪市など13県、2市も額面通りには受け取れない。給与ランクに一致するよう職能ランクを上げるなど、表面的に「わたり」を 解消する手はいくらでもあるからだ。
「わたり」は職能を無視した悪平等の給与制度である。その究極のモデルはかつて東京・多摩地区の革新自治体に存在した。年齢が同じなら給与も同じという徹底した「年齢給」で、これがあの「給食のおばさんの退職金4千万円」を生み出したのだった。
page: 3
◆労組の強い抵抗
こうした民間では考えられない給与体系を実現したのは、いうまでもなく首長も恐れる自治労の力である。そして、それをただ容認してきたのが地方の人事委員 会だった。委員長も委員も弁護士や公務員OB、地元財界の実力者が大半を占める“お飾り”だからで、いまもモノを言う組織にほど遠い。
ちなみに、教職員の給与が一般行政職よりもさらに高いことも忘れてはならない。人材確保法により優遇措置が講じられているからで、その縮減・廃止が「骨太方針2006」などで盛り込まれたにもかかわらず、改革は遅々として進まない。こちらは日教組の反対による。
地方公務員は公営企業を含めて300万人と、自衛隊を含めた国家公務員の5倍に上る。この膨大な地方公務員の高給与是正は、間違いなく公務員改革の本丸のはずだ。なのに、政治、特に民主党は代表選でも言及さえしない。自治労と日教組が強力な支持基盤だからだろう。
地方公務員の給与は住民税だけでなく、地方交付税によって支えられている。それが来年度予算の概算要求基準でも一律削減から外され、要求は今年度並みとなった。高給与を是正すれば交付税は簡単に削減できる。国民の厳しいチェックの目が必要だ。
- 【日曜経済講座】論説委員・岩崎慶市 公務員改革の本丸は地方 - MSN産経 (via peperon999)