システムが無くなった日
自分のブログに書こうとも思ったのですが、会社が特定されてしまいそうなのでここに書きます。どこかに書かなければならないと思ったのは、この事実を誰かに伝えなければならないと思ったからです。
私が勤めていた会社はシステム屋さんです。2タイプの職場があって、一つはお客に注文を受けてシステムを開発してリリースして終了。もう一つはお客の会社に居候させてもらってシステムの維持管理をするというものです。私は後者のほうです。
お客は工場も複数構える結構大きな企業で、様々なプラスチック製品やコンピューター部品を作るところであります。日本だけじゃなくて海外とも取引があったと思います。
1. コンピュターシステムの入れ替えを要求される
この不況のなか、様々な設備投資の資金を抑える事を進めていた中で、システムについても、もっとコストの安いものをと以前より私の会社の上役達と試行錯誤を繰り返してきたのですが、そもそものお客様の持つシステムの規模が大きすぎてそれらを新システムに切り替えるんは莫大な資金が必要になるとの結論が出て、結果、破綻しました。
お客様のほうは別のシステム屋と新システム構築を行なう事になりました。
操業管理のシステムというのは実はある程度はどこの会社(工場)も似たようなもので、パッケージとして販売されているものもあります。そのパッケージを若干カスタマイズして使うというコンセプトだったと思います。当然、一から作るわけじゃないのでコストも低くすむ、という概算だったと思われます。ですが、実はこのパッケージを使ってシステムを構築するという考えも私の会社の上役との中でも考えられた一つの策でした。それでもコストは高かったと言われています。
2. プロジェクトが始まって、いよいよ全貌が見えてくる
私たちが作り上げてきたシステムの仕様をドキュメントへと落とし、それをパッケージをカスタマイズする別の会社(仮にA社とする)に引継ぐ作業の中で、パッケージをカスタマイズするだけでは対応不可能な様々な機能が浮き彫りになってきました。
私の会社の上役達はそれは想定されていたもので、もういずれ私たちはこのお客様の工場・オフィスから引き上げる事になっているので、なんら援助する必要はない、との結論が出されました。(既に様々なコストカットをされていたので、援助をするということはタダ働きをする事に等しいのです)
その結果、A社はある決断をします。
「パッケージで実現可能な機能のみ実現させる」
それはまっとうな判断だと私は思います。金を掛けてはならない事になっているので。
3. システムがリリースされる
新システムがリリースされ、工場は新システムで操業が行われる事になります。契約上、私たちはこの時点で殆ど引き上げました。若干、残された私たちのシステムの撤去の為に数名が残ったと聞きます。後はその数名づてに聞いた話です。
パッケージで実現不可能な機能は全て工場のスタッフの手によって作業される事となりました。ExcelやAccessを駆使してやろうという事になったらしいのですが、そこは今までシステムだけに頼っていた人達です。時間を掛ければ可能なのですが、その結果、工場で生産されたものを期日までに出荷させるために、残業をすることがほぼ前提となりました。今までシステム(コンピュータ)がやっていた様々な集計・計算処理を人間がやるのですから、その規模にもよりますが、大変な作業です。
その上、新システムは様々な不具合が出て頻繁に停止。
4. 人間によるハンド作業でシステムを補った結果
現場のスタッフの何人かは過労死、何人かは自殺、何人かは会社を辞めました。人数を補うために募集も掛けていたらしいのですが、激務の職場であるという噂がたち、近隣の高校などではその工場への就職はさせないように通達がされました。(どういう経由でそれが行われたかしりません)
そしてついに納入日に納入できないという結果になります。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、日本以外の企業では例えば「日本の会社の一部が納期割れを起こした」だとか「製品の中に異常が見られた」などが発生すると、その特定の会社だけではなく「日本からの製品」を全面納入ストップとなります。納期割れを起こした結果、日本の他の同じ様な製品を作っていた工場についても製品の納入を拒否され、大きな損害が出ました。
5. 我社に救援要求がくる
既に私は別の部署で働いていました。
工場に残っていた数名の社員も撤退(一人はそのまま退職)し、工場に勤めていた私たちのグループのメンバーはみんなバラバラとなっていました。そんな時、旧システムを復活させて欲しい、という依頼が上役の元へと来ました。
上役は社長などとも相談して結論を出します。
リスクが大きい割にメリットが少ない
人員を確保できない(辞めてしまった人もいる。その人達を呼び戻す事が不可能だったと思われます)
一度は我々を裏切った(他の社と契約した)経緯があるので、ここでホイホイと再契約するのは、別の会社と取引もしている我々のメンツが立たない
結果、救援を断る事になりました。
6. 工場は閉鎖される
結局、工場は閉鎖されることになりました。
あまりそこらの知識がないので詳しくは知りませんが、資産(と人)は様々な別の会社に買い叩かれて、会社が潰れた、という形にはなっていないそうです。
不景気だから、という理由が全面に出されて工場閉鎖の知らせが私のところにもきましたけども、そもそもの理由はシステムの切り替えに失敗しているという事実を私は知っています。
『何が悪かったのか?』というのは今となっては色々と問題があると思うのですけど、システムのコストを下げる際に、これ以上のコストダウンは操業が停止する可能性がある、という警告をお客側が無視したというのが大きいと思います。お客側と言っても、工場で働く作業員やスタッフではなく、たった一人、工場長(社長)の一言なのですが。
ではその社長は今はどうしているのかと言えば、関連会社の別の工場長として働いています。
私が何が言いたいかと言えば、それは、マスコミは不景気というひとくくりの中に色々なものを原因として、失業や過労死、自殺が起きるのだと言っていますがそれは違います。たった一人の人間の軽率な考えが多くの失業者や自殺者、過労死を生むこともあるという事を知ってもらいたいのです。
- システムが無くなった日 (via puruhime)